電話の後、いざとなったら高崎に任せると強引に業務を託し、上官の部屋へと向かう。 軽く扉をノックするが、返事はない。

「失礼します」

念のため、声をかけてから扉を開く。
部屋へと足を踏み入れた時、ソファーで目を閉じている東海道に気付くと後ろ手で扉を閉め、どうしたものかと半分呆れも混ざった大きなため息を付き、側に寄ってみる。

「まったく…この人は…」

ソファーでうたた寝をしてしまっている東海道は侵入者にまったく気付かず、スヤスヤと寝息を立てている。
東海道の目の前に立ち、宇都宮は顔を覗き込んだ。
目の下にうっすらとできてしまっている隈が疲労を表している。

「体を壊してしまったら元も子も有りませんよ。」

聞こえないのはわかっていてもついつい話しかけてしまう。
指先をそっと伸ばし、東海道の頬に手を添える。
相変わらず綺麗な顔立ちだと思いながら目元にそっと口付け、頬に添えていた手を顎に滑らせ、口元に自分の唇を押し当てる。
起きる気配がないのを良い事に今度は深く口付けてみる。

「…まったく気付かないと言うのもなんだか癪に触りますね…上官」

唇をゆっくり離すと、ほくそ笑んだ宇都宮は顎を上に向かせ、少し開いた唇にそっと舌を差し入れた。
一瞬苦しそうに東海道が眉間にシワを寄せたが、気にも止めず、葉裏を舌でなぞってみる。

「……ぅん…」

眉間のシワがより一層深くなったところで顔を離し、見つめる。


「……ん……宇都…宮?」

やっと重そうな瞼がうっすらと開き、まぶしそうに前にいる宇都宮を見据える。
この瞬間がたまらなく好きだと、本人には絶対に言わない。
目の前に宇都宮がいることが信じられないのか、東海道が呆然と名前をつぶやく。

「…宇都宮?」

「はい。」

瞬きを何度もし、そっと宇都宮に触れて来る東海道は無意識なのか、宇都宮を確認するようだった。
在来と高速鉄道…会いたいと思ってもすぐに会えるわけでもなく、気がつけば一ヶ月も会えないままなんてこともある。

「やっと気付きましたか…」

呆れながらもどこか楽し気に笑い、そっとハンカチを差し出す。

「よだれ…出てますよ?」

「なっ!!馬鹿な…」

顔を真っ赤にし、慌てて手を口元に持って行く東海道をクスクスと笑いながら見つめる。
自分の行なったせいだとしてもそれは言わない。
奪うかのようにハンカチを取り、拭う姿はなんとも言えない馬鹿らしさもあり、愛しさも込み上げてきた。 日頃見せる姿は高速鉄道の威厳を損なう事の無い厳しい人だが、今目の前にいるのは、宇都宮だけが知っている東海道である。

ようやく目が覚めたのか、東海道は目の前に宇都宮が居ることに少々不満を感じ、じっと睨みをきかせて来る。
そんな行動さえ愛しいと思ってしまうあたり、きっと治る事の無い病気なんだと思う。

「やはり思った通り、うたた寝してましたね」

「なっ!今のはただ目をつぶって考え事を……」

「はいはい、そう言うことにしときます。」

慌てる東海道をなだめる宇都宮だったが、誰が見ても疲労がピークに達しているだろうことが伺えるのが許せなかった。
自分の見ていない所で誰かが東海道の心配をする事も許せない。
ましてや勝手に倒れられては困るのだ。
せめて無茶をする時は自分が側に居たい。

気まずい空気を察したのか、東海道が困惑する。

「まぁ…なんだ…その…膝を貸せ。」


「……はい?」

いきなり何を言い出したのか理解できず、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔のまま東海道を見下ろした。

「いいから、ここに座れ」

東海道の座っている隣を指差し、2人で座るには余裕のあるソファに宇都宮が大人しく座る。
そのまま宇都宮の膝の上に頭を乗せると照れ隠しなのか、視線から逃れるように再び瞼を閉じた。

「30分だ。」
「何がです?」
「30分経ったら起こしてくれ。」

僅かに薄紅色に染まる耳に気付いて、宇都宮の笑みが漏れる。
安らぎを求めていたんだろうか、東海道はそのまま深い眠りについたようだった。


「まったく…」

この後に続く言葉を飲み込み、軽く天井を仰ぐ。

30分後、彼が起きた時にどんな嫌味を言ってやろうかと考えていることなど知る由もなく、 宇都宮の前では上官服を身に纏ったただの男はつかの間の休息を取った。





うたた寝ごっこですからw
しかし、よくあるような設定に…ゲホッゴホッ…